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恋の話
写真の中に美しい人がいた。
物腰の柔らかなそうな人だ。気品があって優しい穏やかな人だと言われた。欠けたところのない完璧な人だと。
恋をするのに時間はかからなかった。会ってみたいと口にするのも同様に。
どんな声で話すのだろう。どういう風に表情を作るのだろうか。足の長さは? 指先の色は? 会える日が待ち遠しい。早く会いたい。愛しい人。
「初めまして。お会いできてとても嬉しいわ」
美しいその人が目の前にいた。息を吸って吐いて声を出す。笑みを作ってそこに存在している。
愚かだと馬鹿げていると嘲笑い侮蔑してくれて構わない。
どうやら僕は写真の中の物言わぬ彼女を空想しているのが好きだったらしい。
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