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壱
むかしむかし、ずうっとむかし。おじいさんやおばあさんが生まれるよりもむかしのことです。
神様の国に、一柱の神様がいました。威張りん坊で怒りん坊な神様は他の神様といつもケンカばかり。みんなの嫌われものでした。
ある日、神様は国で一番偉い神様が大事にしていた宝物を壊してしまい、他の神様達からとてもとても怒られてしまいました。けれど、威張りん坊で怒りん坊な神様は謝りません。一番偉い神様は、威張りん坊の神様を呼び出して言いました。
「おまえは人間の国に行って、そこに住む者達の願い事を叶えなさい。願い事を百個叶えることができたら、神の国に戻ってくることを許します」
威張りん坊の神様は、ぷりぷり怒りながら神様の国を出発しました。ぷんぷん、ぷりぷり。ぷりぷんぷん。神様は人間の国を目指します。ぷんぷん、ぷりぷり。ぷんぷりぷり。
神様がもらったのは小さな小さな神社でした。そこが神様の新しいお家です。
人間の村長さんがやって来て、神様にあいさつをしました。けれど神様はそっぽを向いて答えません。村長さんは「これからよろしくお願いします」と言って、お供え物を神社に置いて行きました。神様はお供え物から果物を取って食べました。甘くて、とろけて、ふんわり香りが広がります。こんなに美味しいものが人間の国にあるのが悔しくて、神様は怒りました。
「おいしくないおいしくない。こんなの食べられないよ」
神様は果物を放り投げました。帰ろうとしていた村長さんは悲しそうな顔をします。
神様はお供え物を全部捨ててしまいました。そうして、村長さんに向かって胸を反らせて言いました。
「わたしは神様なのだから、人間の食べ物なんかいらないのだ。おまえ達は、わたしのことを大事にすればそれでいい。おまえ達の願いを全て叶えてやろう。さあ、さあ、願え。さあ願え」
村長さんは困った顔をして神社を出て行きました。外から様子を見ていた村の人達も、森の動物達も、みんな帰ってしまいます。
あれあれ変だ、おかしいな。
願い事を叶えるのは神様の仕事です。願い事を言うのは人間や動物達のすることです。
どうしてどうして。どうしてみんな帰ってしまう?
その日はもう、誰も神社へ来ませんでした。
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