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次男・夏輝①
「山田さんの様子がおかしい?」
チェックアウトのお客様を送り出した昼下がり、フロントにて。せっかく小声で相談したのに、兄貴はかなり大きめの音量で返事した。慌てて人差し指を唇に当てる。どこで本人が聞いているか分からない。
すると兄貴は「悪い」と呟いて、やっと声を潜めた。
「おかしい?」
「そう、秋宏が引っ越した辺りから…」
「どうおかしいんだよ…?」
「…なんか、冷たいと言うか…なんと言うか…」
何と伝えたら良いか分からなくてボソボソ呟くと、鼻で笑われた。
「お前の事だから、どうせ夜の話だろ?そんなに断られてるのか?」
「!」
図星で、顔が熱くなった。兄貴は本当に察しが良い。心が読める能力でも持ってるんじゃないか?と本気で思ったこともある。
まあそんなことは置いておいて。
去年の春に付き合い始めてから、伊織は毎晩のように俺の部屋で過ごすようになった。彼女の従業員用の部屋は、空き部屋も同然になっていて。俺的には、長年片想いしてた彼女とそうやって過ごせて、本当に幸せで仕方なかった訳なんだけど。
秋宏の引っ越しを手伝って、次の日も休みだったから冬真と2人でそのまま1泊して。家に帰ったその日の夜、布団の中で何となく触れたら、もの凄い勢いで拒否された。
1日会わなかったから照れてんのかなとか、ひと晩帰らなかったから拗ねてんのかなとか、色々考えたけど、次の日もその次の日もそんな雰囲気で。
終いには、俺の部屋に来なくなった。
それから1ヶ月経って、完全に付き合う前のような状況に戻っている。むしろ、会話もままならない現状は、付き合う前よりも悪い状態かもしれない。
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