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「おい、キラキラ女!見たぞ!」
「見た?何を?」
「トボけんな!入籍するんだろ!」
「!」
夏輝さんにニヤニヤしながらそう言われて、チラリと彼の様子を伺った。困ったような、なんとも言えない複雑な顔で私を見ている。
「そんな話になってんなら言えよ、水臭えな!」
ポン、と肩を叩かれた。だけどそこに彼が割って入る。
「だから、別にそんな話になってないって」
その、呆れたような口調。グサ、と棘が胸に突き刺さった。
「明日も早いし、俺達は寝るから。この話は終わり、」
お前も早く寝ろ、と付け足して、彼は私の手を引いた。
渡り廊下を進む、彼の背中。私は嫌な汗をかいていた。ちょっと冗談で言ったつもりだったのに、夏輝さんのあのリアクション的に、きっとご両親も見ていたはずだ。
勿論、彼本人も。
部屋に入ると、「座って」と座椅子に促された。黙ってそこに座る。と、彼はいきなり核心に触れた。
「…あれ、どういう事?」
気まずくて、「あれって何?」と濁す。
「今日の昼間の。父さんも母さんも、みんなで観てた。俺達、そんな話してたっけ?」
彼の声のトーンは暗かった。怒っているのと紙一重くらい。
もっと明るい感じで茶化してくれたら、笑い飛ばせたのに。全くそんな雰囲気では無い。
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