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こんな話を真剣に相談するのも初めてで、何だか照れくさかったけど、兄貴は黙って聞いてくれていた。
「…心当たりは無いのか?」
「ねえから相談してんだろ…」
「その辺の女に手出したとかじゃないのか?」
「そんなわけねえだろ!」
思わず声を張ってしまって、兄貴は目を見開いた。
「ムキになるなよ、」
と宥められる。だけどムキになるのも仕方無かった。
彼女とは、結婚を考えていた。今のままでは出来ないけど、一人前になったら言おうって。その事はもう既に親父にもお袋にも伝えている。
「…フラれたら、俺、死ぬかも」
「珍しく弱気だな」
彼女は、今や俺の全てだ。仕事のモチベーションも、ストレスを癒してくれるのも、プライベートを充実させてくれるのも。この1年で景色が変わりすぎて、彼女を手放した後のことが想像出来ない。
不意に、兄貴が呟いた。
「…なあ、」
「何だよ、」
「お前、ちゃんとしてるよな?」
「何を?」
すると更に声を落とす兄貴。
「…避妊、」
「してるよ!」
食い気味に、返事した。だって、一度たりとも彼女に対してそんないい加減な事をした事は無い。
「毎回?」
「毎回!」
「じゃあ、違うか…」
「…妊娠、してるかもって?」
「ああ。まだ若いし、どうしたら良いか分からなくて悩んでるのかなと思って。住み込みだし、俺達に迷惑がかかるとでも思ってるんじゃないかなって」
それは思いつかなかった。だけど、一理あると思った。何か粗相をしたら、直ぐに給料を下げろだの、お詫びに何かしますだのと喚く。責任感があって、真面目な彼女。もし、俺が秋宏の家に泊まりにいっているうちに妊娠が発覚していたとしたら。あの態度も頷ける。顔色が悪かった気も、しなくも無い。
「…あるかも、」
「ちゃんとしてたって、100%じゃないしな。まあ何にせよ、話さなきゃ何にも分からないだろ。ちゃんと2人でゆっくり話せよ。それでまた困った事があるなら聞いてやるから」
そう言って、肩をポンと叩かれた。
頼りになるとは思ってたけど、兄貴に話してかなりスッキリしていた。例えそうでなくても、話をしなければならないのは確かだ。
今夜、彼女の部屋に行くことを決めた。
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