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従業員用の部屋は、そんなに広くない。4畳に、小さな押入れが1つ。支給されるのは布団が一式。あとはテレビやテーブルを好きに持ち込んで良い。
部屋に入ると、彼女は部屋の隅に敷かれた布団の上に、背を向けて座った。どうやら、目を合わす気は無いらしい。
「伊織、」
呼ぶと、彼女の肩がピクリと動いた。明らかに様子がおかしい。
「…伊織…?」
近寄って、肩に触れる。と、また震える肩。何をそんなに怯えているんだろうか。
そっと顔を覗き込んだ。彼女は泣いていた。
「…えっ…、どうしたんだよ…?」
思わず、抱き寄せる。だけど彼女はその腕を振り解いた。
「…やめて…!」
「何で?何がそんなに嫌なんだよ…!」
尚も泣きじゃくっている彼女。もう訳が解らない。
「何かあるなら聞くから、言えよ…!」
「…ッ…」
何も言わないから、痺れを切らして尋ねた。
「…もしかして……、妊娠…?」
決死の思いで尋ねたのに、彼女は鼻で笑った。
「……妊娠なら、良かったかもね」
…え?違うの?じゃあ、何…?
本気で訳が分からなかった。妊娠じゃ無いなら、何で突然その態度?
「…俺、何かした?」
すると彼女は力なく笑って、
「夏輝には一生分からないよ、」
と呟いた。
「…もう、良い?寝るから、出てって…!」
突き飛ばされて、心が折れた。取りつく島もない。
「…分かったよ、」
立ち上がって、部屋から出た。
訳が、分からない。全く身に覚えがない。
こんなに大切で、愛しいと思ってるのに。
本当に、近々別れを告げられるかもしれない。
扉の前に立ち尽くして、絶望していた。
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