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「…もしかして、夏輝と喧嘩してる?」
夏輝が部屋に来た翌日。団体様の宴会の片付けをしている最中、女将さんに言われた。
喧嘩、と言うよりは、一方的に避けている。
そんなことを言えるはずもなく、
「…はい、まあ」
と、曖昧な返事をした。
「あの子、昔は遊んでたし、今もバカだけど、根は良い子よ?いつも真っ直ぐだし、一生懸命だし」
「…それは、分かってます」
「なら良かった。何か気の利かない事でもしちゃったのかもしれないけど、悪気は無いと思うから許してあげて?」
ニコ、と微笑われたけど、複雑な気持ちだった。
別に、夏輝が悪いわけじゃない。私が勝手に嫉妬して、勝手に惨めになってるだけだ。でも「家族が居ないから」なんて話をしたら、重く思われそうで。そんなこと絶対に言えない。
女将さんは食器を盆に乗せながら、「ホント、あのバカ息子は何をしでかしたんだか」と呟いている。チクリ、と胸を痛めた。
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