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長男・春彦②
編集さんに月島旅館を紹介したのは、確かに私だった。だけど雑誌に掲載されたその翌日には、もう既にその事を後悔していた。
「一緒に写真撮ってくださいっ!」
満面の笑みでスマホを差し出す、数名の若い女性客。彼は戸惑いながらも、それに応じていた。
面白くない。その姿を見て、私はずっとイラついていた。
だって、写真を撮る度に、彼の身体に触れる手。腕や腰に回される腕。
別に、イライラしたって仕方ない。彼は仕事の一環として笑顔で対応しているだけ。他意はないのは分かっている。
だけど、今までの人生で感じたことのない醜い感情がドロドロと流れ出て来て、「ああ、これが嫉妬か」と初めて知った。
どうにか彼を独り占めしたくて。気が付けばテレビの生放送で「近々、入籍する予定です」なんて発言していた。
SNSで拡散でもされて、彼のファンが1人でも減れば良い、なんて軽く思っていたのに、運悪くそれを見られていたらしく。
夜、旅館に帰った途端、
「やっと帰って来た!」
と、興奮気味に迎えられた。
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