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「うあ~、熱い~」
喉を通り抜けてじんわりと広がっていく熱と、一気に下りてどこに食道があってどこに胃があるかはっきりわかるような熱とが、冬の寒さに震えていたわたしをちょっとだけ癒してくれる。
このあったかさがあれば、まだまだ歩けそうだ。
もちろん、飲まなくても今日はもうちょっと歩きたい気分だったんだけどね。
団地近くの用水路沿いに生えている木々はまるで小さい頃に保育園でよく借りて読んでいた絵本に出てきた『お化け並木』みたいで、今でもちょっと夜に通るのが怖かったりするけど、たまにはそんな怖さも悪くない。
あの頃――というか幼稚園から高校までは、卒園とか卒業とかで誰かと離れてもまた違う誰かとの出会いが待っているのが当たり前だと思っていた。ところてんみたいに押し出された先に、また新しい天突きに入ることになるって、無条件に思っていた。
当時はそれがすごく不自由なことのように思えていたけど、今にして思えば、それってかなり贅沢なことだったし、安定していたんだろうな――なんて痛感せずにはいられない。
自分で自分のことは何でもできると思っていたあの頃の自分が懐かしいし、ちょっとだけ眩しいし痛々しい。本当にひとりきりになってみたら、案外わたしの手はちっぽけだったし、わたしにできることは本当にわたしの周り狭い範囲のことだけだったし。
まぁ、わたしは自分で思っていたよりも普通の人だったっていうことなのかな、と。
そんなことを思いながら吐き出した息は、まだコーヒーの熱で真っ白だった。夜道はまだまだ長い。もうちょっと先にまた次の自販機があるから、そこのごみ箱でこの缶を捨てようかな。
真っ白な月に照らされた道が、まるでランウェイみたいだな、とか思う程度には浮かれた頭で、わたしはもうちょっと歩くことにした。
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