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「やっぱり楓姉ちゃんだ、久しぶり~、覚えてる?」
声をかけてきたのは、親同士の付き合いがあって昔よく遊んでいた宇藤 陽洋くんだった。昔はよく『あきちゃん』って呼んで一緒に遊んでいた。
彼が小さい頃はわたしがどこかしらに連れ出して、ちょっと育ってきてからはその先で何かしら困ったことになりがちだったわたしを助けてもらうっていう関係が何故か定着していた。
わたしが大学に通い始めてからはあんまり関わりがなくなっちゃったけど、あれ、もうそろそろ二十歳になるのかな……? 6つ下だから、たぶんそのはず。
なんか、ずいぶん大人っぽくなったなぁ……。
「久しぶりだね、陽洋くん。あの、元気にしてる?」
しばらく会ってなかったから、なんとなく距離感を掴めない気まずさを味わいながら、声をかける。ていうか、わりと遅い時間だけど……? なんか、ちょっと見ちゃいけないもの見ちゃったのかな?
「あの、どうしよう、なんか邪魔しちゃった? ちょっと通りかかっただけだからあんまり気にしなくてもいい、」
「姉ちゃんさ、なんかあった?」
慌ててその場を立ち去ろうとしたとき、引き留めるような声がついてきた。振り返った先の顔は、なんだかすごく心配そうで。
「え、別に何もないけど? なんか、心配させちゃったかな」
「怖がりな姉ちゃんがこんな真っ暗な夜に出歩くなんて、なんかあったとしか思えないけど?」
「べ、別に陽洋くんと一緒だった頃と同じじゃないから」
「一昨年の終わり頃、ちっちゃい向けのホラー番組でガチ泣きしながら電話してきたの、忘れた?」
「そ、そうだっけ?」
「まぁ、酔ってたっぽかったからなぁ……」
「うぅ……ごめん~」
「別にいいよ、俺も姉ちゃんの声聞くの久々だったし、あのとき。てかほんとどうしたの、こんな夜遅くに?」
「え? う~ん、なんだったかなぁ……。なんかね、歩いてるうちに忘れちゃったかも。わたしも、久しぶりに会えてよかったよ。そろそろ帰るね、じゃ!」
「あ、そう? それじゃ、気をつけて帰りなよ?」
「うん! 陽洋くんも、寒いんだからあんまり遅くならないうちに帰りなよ?」
「りょーかい」
気のない返事を聞き流しながら、大人しく家路に就くことにした。
なんだか調子崩れたな……、そんなことを思っていたとき、いきなり腕を掴まれた。
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