代わり映えしない、愛しき日々に

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「――――っ!? えっ」 「どうしたのお姉ちゃん、こんなところでひとりっきりで~? もしかして、ひとり寂しく歩いてる感じ? だったらオレっちと歩かない?」 「えっ、え、えっ、いや違っ……」  何が起こったのか、咄嗟(とっさ)にわからなかった。  わかったときにはもう、下卑た笑みを浮かべるちょっと年上くらいの大柄な男の人に腕を掴まれてしまっているっていうことで。  いつもテレビとかドラマとか見ているときに『なんでこれもっと全力で抵抗しないかな~』とか言いながらお菓子を食べている場面に遭遇している。だったら全力で抵抗する? ううん、いざなってみたらわかる、怖い。  何をするんでも怖い。  何もしなくても何をされるかわからない。  何かしても逆上されて何かされるかも……。  相手の人はすごく酔っぱらっているのか、酩酊なんていう言葉が生易しく感じてしまうような状態だった。だから、余計に常識じゃあり得ないようなことをしてきそうな雰囲気があった。 「ね~え~、いいじゃんいいじゃ~ん、絶対退屈させないからさ? むしろ退屈するような暇ないくらいにするっつーか?」  ずっと笑っているその人が怖くて、ついさっきまでいた薄明かりの商店街を見つめてしまう。もうちょっとあそこにいたらよかったのかな?  陽洋(あきひろ)くんの言葉に、もうちょっと甘えてもよかったのかな……?  なんか、駄目だなぁ。  やることなすこと裏目に出て、結果失敗して……。うまい具合に隙を見たりして逃げる……とかできないかな。  どうしよう……。  ずっと前に通信講座で習ったっていう友達に聞いて覚えた護身術とかを思い出そうとしていたとき。 「あの、ちょっと離れてもらえます?」  すぐ後ろから、さっきまで聞いていた声がした。
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