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目を開くと、見知らぬ世界が拡がっていた。
「確か、部屋で寝ていたはずだが…」
広い大地と点在する見たこともない石碑。その向こうに見えるのは何かの動物か?何より目を引いたのは、澄み切った青空に浮かぶ、巨大な水晶。
その見たこともない美しい景色に誘われるように一歩足を踏み出し……落下した。
「いてっ!」
頭の痛みに目を開くと、見知った天井が目に入った。そのまま視線を巡らすと、昨日食べたコンビニ弁当の残骸が乗った小さなテーブルと、読み散らかした雑誌やゴミ。この汚い部屋は、紛れもなく僕の部屋だ。
僕は床から飛び起きると、慌ててスケッチブックを取り出した。
◇◇◇◇◇
「個展の開催、おめでとうございます。初日から、大盛況ですね」
「ありがとうございます」
「先生の代表作と言えば『午睡の水晶』。デビュー当時からシリーズとして何度も描かれている作品ですが、描かれる度にその美しさが増していると評判で…」
「いえいえ。まだまだ全然…」
「流石!更なる高みを望まれて…」
そんなんじゃない。
僕は、アナウンサーの声を遠くに聞きながら、あの世界に思いをはせていた。
この世のどこにもない、美しい世界。
僕は、あの日見たあの世界を、この世に再現しよたくて、ただ必死に描いてきただけなんだ。
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