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ぼくと兄じゃ
兄じゃは時々、ぼくにいじわるをする。普段は優しく世話を焼いて、一緒にも遊んでくれる。だけれど、時々いじわるになる。
夜、一人で厠に行こうとすると、後ろから大きな声を出された。ぼくの後ろを指差して「お化け!!」と叫ばれたことも、何度もあった。その度に「おまえは、本当に怖がりだなー」といつも笑われた。悔しいけれど、何も言い返せなくて涙ぐんでいると「お化けなんかいないんだからさ、怖がるなよ」と言って頭を撫でてくれた。いないと思いながらも、もしもいたらどうしようと思ってしまう。だから、怖がりだと言われるんだ。
ある日、ぼくは熱を出して学校をお休みした。だけど、薬が効いて、熱はすぐに下がった。一人で寝ているのは退屈だと母に言うが、母は「まだ寝てなさい」と言って、ぼくが起きるのを許してくれなかった。
布団の中でうとうとしていると、外から声が聞こえた。いつの間にか西日が差すような時間になっていた。部屋の中まで、妖しく赤く照らされていた。
声のする方を見ると、障子の向こうに動く影を見た。ゆらゆらと揺れる長い尻尾、尖った耳と長い鼻。獣のように見えながら、その高さは人のそれを大きく超えていた。
「!!!!」
ぼくは口を大きく開けて、声にならない叫びを上げた。
『お化けだ!お化けは本当にいたんだ!!兄じゃ…』
そこでふと、兄じゃの言葉を思い出した。
『お化けなんかいないんだからさ』
もしかすると、これも兄じゃのいたずらなのかもしれない。そう考えると、不思議と怖くなくなった。耳を澄ますと、会話の内容は聞きとれないが、どこか楽しそうな雰囲気は伝わってきた。
ぼくはそろそろと布団を抜け出し気付かれないように近付くと、障子に手をかけ、一気に障子を開いた。
「熱で寝ているのに、うるさいだろ!」
兄じゃに、お化けなんかもう怖くない!ぼくは、お化けにだって強く言えるんだ!と分かってもらうために、あえて、大きな声で怒鳴った。
「あら、ごめんよ」「うるさくする気はなかったのさ」「もう行くから」「許しておくれ」
そこに兄じゃはいなかった。
口々に言われた謝罪の言葉は、どれも聞いたことのない声だった。そして、どれも見たことのない姿をしていた。
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