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「か…う……ケロ…」
「どうしたの?」
「ゲロ…ゲロゲロ…ゲロゲロ…」
蛙は困ったように首を傾げると、とても蛙らしく鳴いた。
「歌えないの?」
「ゲロ…」
どうやら、土砂降りの雨の中でしか歌えないらしい。人間の言葉も話せなくなって、ただの蛙に戻ったようだ。
僕は寂しく思いながらじっと蛙を見詰めていると、蛙がすっと、左手を上げた。僕も釣られるように右手を上げて、その小さな足に合うように、人差し指を前に出した。
蛙は、左手でちょんちょんと僕の指先を握ると、踵を返して葉っぱの中に消えていった。
残された僕は、蛙が握った指先をじっと見詰めながら考えた。
「今のは、何だったんだろう?さよならって意味かな?」
もう会えないのだとしたら、とても寂しいな。だけど指先を握っていた時、蛙は笑っているように見えた。
「もしかして!」
人間の子供の歌を聞いて、うろ覚えの歌を歌っていた蛙だ。さっきのも、うろ覚えでやったことだとしたら
ゆびきりげんまん!
蛙の指はとても小さい。小指がどれかも分からない。そして、僕も人差し指を出していた。
それはきっと、再会の約束。土砂降りの雨の日に、再びここで会おうという。
雨はすっかり止んで、遠くにきれいな虹が見えた。
再び会える雨の日を楽しみにしながら、僕はスキップをしながら、家路を急いだ。
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