かえるの歌

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かえるの歌

「かえるのうたがー うたっているよー」  土砂降りの雨の中、ぐちょぐちょになってしまった靴を諦めにも似た気持ちでゆっくり家路を歩いていると、どこからか、調子っぱずれの歌が聞こえてきた。初めは気のせいかと思いながら、雨の音の中にその歌声を探すために耳を澄ます。 「かえるのうたがー」  やっぱり聞こえた!とても小さいけれど、確かな歌声。  雨の音に掻き消されそうなその小さな歌声を辿って行くと、生い茂る葉っぱに混じるように、隠れるようにして“立っている”蛙を見付けた。後ろ足だけで器用に立ち上がり、前足を手のように広げ、目を閉じて、とても気持ち良さそうに歌っていた。 「かえるのうたがー うたっているよー」  調子っぱずれだし歌詞も違うけど、間違いなく『カエルのうた』だ。蛙が『カエルのうた』を歌っていた。 「かえるのうっ…!!」  思わず、蛙を凝視していたせいか、蛙がその大きな目をさらに大きくして、歌うのを止めてしまった。そして、ゆっくりと前足を下ろして蛙らしく座ると「けろけろ…」と、とてもわざとらしく鳴いた。 「何で?もっと歌ってよー!」 「………けろけろ」  僕から目を逸らすように横を向くと、またわざとらしく鳴いた。 「さっきの歌、とっても上手だったよ」 「ほんとか!?」  蛙がこっちを向いた。 「おれのうた、うまいか?」 「上手い上手い!それに、蛙の歌なんて、初めて聞いた」 「そうか?にんげんのこども、うたってた。きいて、おぼえた」  そう言って蛙は再び後ろ足で立ち上がり、気持ち良さそうに歌い出した。誰かが歌っていたのを覚えたのだろう。歌詞は少ししか知らないし、音程も合っていない。それでも、蛙が歌う歌は、とても素敵だった。ただ、小さな体から発せられる歌声はあまり大きくなくて、土砂降りの雨音にすぐ掻き消されてしまっていた。  雨が止めば、もっとよく聞こえるのに…  その思いが天に通じたのだろうか。雨が少し弱くなった気がした。これで、蛙の歌声がもっとよく聞き取れる。そう思っていたのに、
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