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全てが始まったあの日は、寒い孤島であるドゥヌダの一年で最も暖かい日だった。
日照時間が半日を越える。気温も零下になることはなく、雪解け水のせせらぎがこの季節の風物詩となる。
サガァーム・ハンシュルツーーサグゥーーは集落を出るとき毛皮の外套を置いていこうと考えたけれど、脱ぐと心許なくてやっぱり着て出かけた。
使われているのはパスワイツの毛皮。この島の唯一の猫科大型肉食獣。極寒に耐えるため皮が厚くできており、白銀の毛足は長い。防寒具としてはもちろん、防具としての役目も果たしている。だが、慣れない者が着ると、全身が筋肉痛になるほど重い。この暖かい日ぐらいは身軽になりたかった。
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