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1クラス22人。この少ない人数に感謝。だって人数が多かったら、これを届ける機会も減ってしまう。冷たい風が吹き抜ける渡り廊下を小走りで通りながらそう考える。胸にギュッと抱いた日誌に、想いを込めて。何て呼べばいいかもわからないわたしの想い。
職員室の扉の前で深呼吸。毎回のこと。胸の鼓動が飛び出しそうにうるさい。渡り廊下を急いだからなだけじゃない。わたしにとって、この扉は特別。日直になる日が待ち遠しい魔法の扉。『トントントン』扉をノックする。どうかいますように、いてくれますように。心の中で強く願う。入ってすぐ右の奥。猫背の後ろ姿。ふわりと柔らかそうなくせ毛。触れてみたいと思う自分に驚く。みんなみたいに大きな声で「せーんせい!」「朝ちゃん!」などと呼んで、背中をポンとできない。いつものように静かに朝川先生の横に立った。
「失礼します」
小さく声をかける。
「あっ。おつかれさまです」
顔を上げた朝川先生がわたしに深々と頭を下げる。どちらが生徒で、どちらが先生だかわからないようないつもの様子が相変わらずかわいい。
「何か…何か変わったこと、困ったことなどありませんでしたか?」
そう聞いて優しく微笑む。そうこれ。いつも心が 溶け出しそうになるから、わたしは慌てる。
「…ないです」
急いで心に重たい蓋をする。わたしの心は朝川先生に出会ってからなんだか変。温かなぬくもりを感じたり、氷のように冷たくなったり、その氷が割れてしまったり。朝川先生は担任の先生。わたしは生徒。それも、目立たないその他大勢の1人。 でもわたし…。
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