エピローグ

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百人が百人、美人と声を揃え、千人が千人、美玉と評し、万人が万人、美貌の持ち主だと太鼓判を押す程。右に出る者はおらず、前に出る者もいない。 ――と、評してはいるが――今のそいつは一位というには程遠いほど欠けている部分があった。それは――表情。今のそいつには見慣れ見飽きた笑顔が――浮かんでいなかった。どんよりと、どっしりと、どっぷりと、二度と這い上がることのできない沼にでも浸かり、朽ち果てる最後に走馬灯を見ているかのような顔つき。肩にでも鉄球が乗っているかのように項垂れ、頭は鉛のように重そうに首が座っておらず、腕は合金でも筋肉に混入しているかのように引きずっている。 そんな今にもその場に倒れ、二度と目が覚めないんじゃないか――というくらいに見るに堪えないそいつを、僕は助けるほどカッコイイ男じゃない。 いや、蛇足か。 「えーっと……取りあえず、お疲れ様」 「ええ、ハイ……。お疲れ様です」 嘆息でも吐くように、そいつは僕の心無い呟きに応えた。 対するそいつも、別段何か意味を持って応えたわけでもないのだろう。取りあえず、取りあえず――僕の対応をしたといった感じ。 「どう、お巡りさんの方は」 「あちら側も私たちのことを忘れているらしいです。なので、もう私はあそこに用はないです」 「そいつはまぁ、ご苦労なこって」 「ただ、一週間は外出を控えた方がいいですね。いくら私たちが消えた存在となっても、職務質問されるかもしれませんし」 「別に大丈夫だろ」 「あまり日本の警察を侮ってはいけませんよ。それこそ、ケイちゃんはよく理解していますでしょう?」 「そりゃあそうだけど――というか、見てたのかよ」 「ええ……まあ、ハイ」 「はんっ、ならもしも僕がお前を一番に気付いていたら疑っていただろうよ」 「でしょうね。ですけど、警察の方に一枚食わされてそれどころではなかったでしょう?」 「そりゃそうだけど。もう二度とあの人たちとは会いたくないね」 「同感です。あの二人は異色過ぎて吐き気がしました」 「へえ、お前でもそんなこと思うんだ」 「カワイイ私でも、あの二人は無理です。根本的な部分から私と合いません」 「あー、確かに。あの類はどっちかというと正反対の存在だからなぁ。特にあの人は……」 一瞬だけ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるそいつは、すぐに先ほどの顔つきへと戻す。
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