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「そんじゃまあ、次は僕の番か」
そう言って僕は――左手に持つ一丁の拳銃のハンマーを起こす。拳銃――正確には、弾倉と銃身が一体化したリボルバーのフリントロック式、ペッパーボックス。そいつと鏡写しとなる形で街灯の光に反射して輝く得物を、自分のこめかみ部分へ持っていこうとした時、「あの、ケイちゃん」と呼び止めるかのように早口で投げかけてきた。
「何? もしかして間違ってた?」
「いえ……」
「一発で百人だろ? 数違い?」
「いえ……」
「人を個別に取捨選択はできないのが違ってる?」
「いえ……」
「僕の脳がいらないと思った人物から消すことが出来るんだよな? それか?」
「いえ……」
「……じゃあ、何だよ。何、撃ち方の間違いか?」
「いえ……」
ハッキリしないそいつに、少しだけ苛立ちを覚える。
返ってこめかみまで上げて覚悟を決めていたというのに、二割ほど面倒くさいという感情が生まれてしまったために左手を下ろしてしまった。
「何だよ。ハッキリ言えよ。お前らしくない」
「では、ハッキリ言います。――その子を、本当に使うんですか?」
そいつは同じペッパーボックスの銃口を、ハンマーが起きたままだらしなく持つ左手のペッパーボックスへ突き付けた。
「別にケイちゃんは使わなくたっていいんですよ。ケイちゃんは今まで通り、過ごせばいいんです。この件も、ケイちゃんからすれば長い人生の一断片、いえ、断片すらならない。明日にでもなれば忘れてしまうくらいどうでもいいことでしょう。それくらいの事なのに、どうしてその子を使おうという経緯に至ったんですか。使う必要が私には微塵も感じられません」
「はんっ、何だ。そんなことを言うか躊躇ってたのか」
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