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 ネロはぼくが小学校に入るときに買ってもらった、黒いラブラドール・レトリバーだ。はじめてうちにやってきた日のことを、ぼくはよく覚えている。  病院で毎日患者さんを診ているお父さんが珍しく休みの日、久しぶりにお母さんと三人揃ってショッピングモールに行った。もうすぐ小学生になるから、ランドセルや文房具や学習机なんかを買ってくれることになっていたんだ。そこのペットショップでぼくとネロは出会った。今思えばあれは『一目ぼれ』というやつなんだろう。絶対飼いたいと、だだをこねて両親を困らせた。  普段だったらあまりわがままを聞いてくれるお母さんじゃないんだけど、お父さんには弱い。それを知っていたぼくは、「おとうさん、ぜんぜん家に帰ってこないからさみしいよ」とすねたふりをして、弱みにつけこんだ。お父さんは少し困ったような、少し嬉しそうな顔をして、「まあ、カズキがそういうなら仕方ないな」と首を縦に振ってくれた。  絶対に世話をするというのと、毎日お風呂洗いをするというのとを約束して、なんとか両親を説得したぼくは、ガラスケージの前で跳びはねて喜んだ。するとネロもぼくを見て、嬉しそうにくるくるまわって跳びはねたんだ。
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