(一)警察署

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 奥の部屋のドアが開き、肩をポンポンと叩かれながら、次男(つぐお)が出てきた。口を真一文字に結んだその顔からは、なんの表情も読み取れない。孝男に気付いた次男だが、悪びれる風もなくそっぽを向いた。とたんに、孝男に怒りの思いが湧いた。 (もそもツグオは、なんで老人に暴行を働いたんだ。ほのかの勤める施設だと言うが、何があったんだ。第一鈴木ほのかさんに対する私の気持ちと、今回のツグオのことと、どんな関係があるんだ) 「ごめん、母さん…」  次男の声が道子の耳に入ったとたん「この子って子は」の言葉と共に平手打ちが飛んだ。そして黙ってうなだれる次男の胸を何度も何度も叩く道子の口から、思いもかけぬ言葉が出た。 「お前とほのかは兄妹なの。血が繋がった、ほんとの兄妹なの」 絶句する次男に対し追いかけるように放たれた言葉が、次男を混乱の極地に立たせた。 「定男おじさんの子どもは、ナガオなのよ」 “なんだ、なんなんだ。なぜ、今なんだ。こんな他人の居る場所で言うべきことなのか。いやそもそもそのことと今回のツグオのこととどういう関係があるというのだ”  孝男もまた混乱した。歪んだ顔から「お、お前。なにを言い出すんだ」と、声を絞り出すのが精一杯だった。両目をカッと見開いて次男を睨み付ける孝男に、道子が毅然と言い放った。 「ツグオは、あなたの子どもじゃないと思っていたんですよ。それで、あなたの大事なほのかに恋心を抱いてしまったんです」 「母さん、やめてくれ! 俺は、そんなんじゃない。ほのかが泣いてるって聞いたから、いや妹にいたずらをしているって聞かされたから、それで…」  俯いたまま次男がくぐもった声を出した。 「いいのよ、ツグオちゃん。あなたの気持ちは、お母さんが一番分かっているから、ね」  次男をしっかりと胸に抱きながら、とんとんと軽く背中を叩いた。 「お父さん、よろしいですかな」  年配の刑事が声をかけてきた。相手側が被害届を出さないことになり、事件化は見送られたと告げられた。 「相手には公にしたくない事情があるのかもしれませんな、想像は付きますがね。それにしても息子さん、妹思いじゃないですか。ま、ちょっと度が過ぎはしましたがな」
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