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陽光
「氷堂涼華です」
私は教室の壇上に立たされ、クラスメイトに名前を告げた。
そして、転校先ではいつも言ってる挨拶をする。
「私は皆さんが嫌いです。なので友達は必要ありません。触られることも嫌いです。遠からずまた転校することになりますし、私には関わらないでください。以上」
途端、生徒達は困惑したようにどよめく。しかしすぐに、その視線が冷え込んでいくのがわかった。
バーコード頭の教師が慌てたように私のフォローをする。私は引っ越しを繰り返してるから友達付き合いが苦手なのだと。手袋とマフラーは体質によるものだから気にしないであげてと。
もっとも、その程度のフォローでは私の第一印象は覆らない。
これで今回も、誰も、真っ向から話しかけてはこないだろう。
ーー
ところが、ホームルーム明けの休み時間。
「ねえねえ涼華ちゃん。なんで手袋とマフラーつけてんの?」
隣の女子が突然机を寄せてきた。というかぶつかった。机に出したシャーペンが滑って床に落ち、隣の子の方へと転がっていく。
「暑くない? 暑いよね。私は今めっちゃ暑いんだけど。窓際だしちょー最悪。見てほら、汗でシャツがベッタベタでさぁ」
しかもすっごいグイグイ来る。目を合わせないようにしてるのに、マシンガンのように話しかけてくる。
鬱陶しい。
私は露骨な不快感を目元に込めて、振り返った。
ちかり、と眩しかったのは、窓から差し込む陽光かと思った。
それは亜麻色の髪の煌めき。
その向こう側には、ぱっちりと大きな目。――綺麗な瞳。
日に焼けた肌。しかし化粧っ気はなく、不良少女といった感じはしない。
活発な印象。俗に言う陽キャラ。
ずかずかと、踏み込んでくる人種。
「私の大嫌いなタイプね、あなた」
だからまっすぐ目を見て、言った。
隣の子の表情が固まる。私は鼻を鳴らして、目を戻した。
しかし、視界の端から手が伸びてくる。さっき私が落としたシャーペンが、机に置かれた。
『ごめん(´・ω・`) アキ』 と書かれた付箋つきで。
(´・ω・`)
「あ! 涼華ちゃん笑った?」
「笑ってない」
……そんな煩わしい彼女の名前は、アキというらしい。
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