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距離感
放課後、帰路。
川沿いの土手道。学校の周りは人工物でごちゃごちゃしてたけど、この辺りは緑も多かった。
川を横切る橋を前にして、足を止める。橋の向こう側に見える駅を利用すれば、家に帰れるけど……。
その前に、私は振り返る。
「ストーカー」
「いや、誤解だって」
後方五メートルほどの位置に立っているアキ。気まずそうに頭を掻いている。
「あの、何か怒ってる? なんか、そう見えて」
「別に」
確かに私は、教室を出る際に声を掛けられたが、無視していた。
けど別に怒っているわけじゃない。断じて。
「で、何?」
「いや、私もこっちに用事があって……」
本当だろうか――と、疑う前に、
にゃあ。
間の抜けた小さな声。言ったのはアキじゃないし、当然、私でもない。
にゃあ、にゃあん。
「涼華ちゃん、こっち」
返事をする前に、アキは身を翻して土手を駆け下りていった。仕方なく、私もその後に続く。
横幅の狭い河川敷。橋の下。落書きだらけの石の壁。
アキはその壁の傍でしゃがみこんでいた。
ダンボールがある。その中で、灰色の毛玉が動いてる。
「捨て猫?」
「うん。おととい、部活でここまで走ったときに気づいた。うちじゃ飼ってあげられないんだけど」
アキは返事の代わりに、カバンの中からキャットフード缶を取り出していた。本当に私のストーキングをしていたわけではないらしい。
ただ……。
「涼華ちゃん、猫、嫌いだった? 怖い顔してる」
「猫は好きよ。でも、」
「じゃ。ほら」
アキは子猫を抱き上げると――私の方に、近づけてきた。
まさか私に抱かせるつもりだろうか。
私は、手袋をつけた手を庇うように、後ずさる。
「ダメ」
「大丈夫、引っ掻いたりしてこないから」
「違うの、やめて」
「涼華ちゃ――」
「やめて!」
思わず、腕を払い退けた。
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