距離感

1/3
前へ
/15ページ
次へ

距離感

 放課後、帰路。  川沿いの土手道。学校の周りは人工物でごちゃごちゃしてたけど、この辺りは緑も多かった。  川を横切る橋を前にして、足を止める。橋の向こう側に見える駅を利用すれば、家に帰れるけど……。  その前に、私は振り返る。 「ストーカー」 「いや、誤解だって」  後方五メートルほどの位置に立っているアキ。気まずそうに頭を掻いている。 「あの、何か怒ってる? なんか、そう見えて」 「別に」  確かに私は、教室を出る際に声を掛けられたが、無視していた。  けど別に怒っているわけじゃない。断じて。 「で、何?」 「いや、私もこっちに用事があって……」  本当だろうか――と、疑う前に、  にゃあ。  間の抜けた小さな声。言ったのはアキじゃないし、当然、私でもない。  にゃあ、にゃあん。 「涼華ちゃん、こっち」  返事をする前に、アキは身を翻して土手を駆け下りていった。仕方なく、私もその後に続く。  横幅の狭い河川敷。橋の下。落書きだらけの石の壁。  アキはその壁の傍でしゃがみこんでいた。  ダンボールがある。その中で、灰色の毛玉が動いてる。 「捨て猫?」 「うん。おととい、部活でここまで走ったときに気づいた。うちじゃ飼ってあげられないんだけど」  アキは返事の代わりに、カバンの中からキャットフード缶を取り出していた。本当に私のストーキングをしていたわけではないらしい。  ただ……。 「涼華ちゃん、猫、嫌いだった? 怖い顔してる」 「猫は好きよ。でも、」 「じゃ。ほら」  アキは子猫を抱き上げると――私の方に、近づけてきた。  まさか私に抱かせるつもりだろうか。  私は、手袋をつけた手を庇うように、後ずさる。 「ダメ」 「大丈夫、引っ掻いたりしてこないから」 「違うの、やめて」 「涼華ちゃ――」 「やめて!」  思わず、腕を払い退けた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加