とある会社のオフィスにて

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「ぶるぶる、今日は冷えるねー。」 「おっ、鴨川部長。今夜あたり『おでんの富塚』で一杯やりますか?」 鴨川部長は、静かに首を振る。 「こんな夜はねぇ、私の妻が鍋焼きうどんを作って待っていてくれるのですよ。」 経理の真由子が目を丸くして言う。 「まぁ、鴨川部長。結婚31年目にして、熱々ですね~!」 「本当ですよ。家庭のぬくもり、うらやましいですな。よっ!熱々部長!」 「よせやい。アッ、ハッハッは!」 事務所に和やかな空気が流れる。その時だった。 「わっ、私の家では・・・」 みんなが、ハッとする。普段一言もしゃべらない柳田係長がしゃべったのだ。 「こ、こんな寒い日は、冷たいざるそばです。」 事務所がしんと静まりかえる。 誰も何も言えず、かといって立ち去ることもできず、ただ、時間だけが過ぎていくのだった。
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