第1章

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 私の父は、私が高校入学の前に他界した。    父親は病死だった。私が中学3年になったとき、父親が癌に侵されていることが判明した。そして1年も経たずして父はこの世から去って行った。  私はそのとき進学するかどうか悩んでいた。今思えばバカげた考えのように思えるが、中学卒業後、就職しようと考えていた。  なぜなら私には弟と妹がいた。弟は中学に入ったばったりで、妹は父親が亡くなったとき小3だった。だから、私は中学を出たら働こうと考えた。母親だけで一家を養うのは大変だと思ったからだ。  しかし母は「そんなことは心配しなくていい」と言って、私に高校進学を薦めた。そして「お父さんはお前たちのことを考えて、ちゃんと生命保険に入っていたのだから」と付け加えた。  父が亡くなって、母が私たち兄弟を女手一つで育ててくれた。父の生命保険がどのくらいの額入ってきたのか分からないが、私たち家族は貧しいながらなんとか生活できた。  私も母に薦められ、高校にも進学し大学にも入った。  高校に入ってからは私もバイトをした。少しでもお金を稼いで学費の足しにしてもらいたかった。しかし母に預けたそのお金は、母は一円も手を付けずに貯金をしてくれていたのだ。だから私はそのお金で大学にも進学することができた。  母は私が大学に進学するときも、「お父さんはお前たちのことを考えて、ちゃんと生命保険に入っていたのだから大丈夫だよ」と言ってくれた。  こうして私は大学に入り、卒業することもできた。弟だって大学を出たし、妹は自分の希望の専門学校を卒業した。  私は母に感謝している。もちろん父にも。そして生命保険というものにも感謝をしている。私や私たち家族が慎ましいながらも、人並みに生活し育ってこれたのだから。    真夏に太陽のありがたさは分からない。寒い冬の日、太陽の光のぬくもりが幸せに感じるように、私の人生は辛いこともあったが、そのおかげで母や父のぬくもりを感じることができたように思う。  そんな想いで育ってきた私は、大学卒業後に保険会社に就職した。私みたいに困った人を助けたいという想いだった。    しかし私が任されたのは保険調査員だった。保険調査は、保険の適応範囲かどうか調査するのが主な仕事だ。  
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