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「おいおい、進之助。お前が適当なこと言うから川合が固まったじゃねぇか」
隣の席の松方先輩が呆れたように会話に参加してきた。川合先輩に視線を戻せば確かにフリーズしている。俺は慌てて立ち上がった。
「どうしたんですかっ? 俺、何か変なこと言いましたか?」
正面に立つと先輩のつむじが見える。本当に小さい。
「……んもう。進之助君と話してると褒められてるのか貶されてるのか分からない」
先輩は両袖を引っ張るようにして手を握り締めながら、俺の正面の席に座った。
「褒めてるに決まってるじゃないですか! 小さいのは正義ですよ」
子犬だって、ハムスターだって、川合先輩だって。小さくて可愛くないものがあるだろうか? いやない(反語)。
川合先輩は唇を尖らせた。
「んもう。気にしてるのにぃ」
「気にしたって仕様が無いだろ。進之助と比べりゃ誰だってチビだ」
松方先輩がさらりと酷いことを言う。俺の身長は百九十九センチ。確かにデカイ方だ。
「松方先輩。俺がデカイのは認めますが、川合先輩はチビじゃありませんよ」
そう言いながら俺も腰掛ける。川合先輩と視線の高さが揃った。くるりとカールしたまつ毛、丸くて大きな瞳。
「いいよ、進之助君。気を遣ってくれなくっても」
いじけたような声に、俺はドンと机を叩く。
「本当のことですもん。川合先輩はチビじゃなくて小さいんです!」
一瞬の沈黙の後、松方先輩が吹き出した。
「あっはっは! なんだそりゃ。それをチビっつーんだよ」
「松方君も酷いけど、進之助君はもっと酷い」
「えええ! そんな。間違ってないのに」
「進之助くーん」
大笑いする松方先輩と、への字口になる川合先輩。小さいは正義なんだけど、なかなか伝わらなくて困る。二メートル近くある俺が言うんだから説得力あるだろ?
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