アマリネ

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アマリネ

「考えてもみてくださいよ。IT業界の寵児が、容姿が並でもセックスが上手いってだけで女に惹かれるわけがないでしょう」  山内一樹(やまうちかずき)が口角泡を飛ばしながら力説するのを聴きつつ、沼澤真悟(ぬまざわしんご)はスーパードライがなみなみと注がれたジョッキを口に運ぶ。ビールを出している国内メーカーはいくつもあるが、やはり自分はアサヒ派なのだと思う。後に引く甘ったるさがないのが、人生によく似ている。  真悟と一樹は、大学時代の先輩と後輩という関係性で繋がっている。真悟は一樹の一期上だが、不思議と一樹は真悟によくなついてきた。互いに社会人となった今日も、仕事終わりに待ち合わせて、こうして杯を交わしている。国道を一本外れた道にある、どこにでもあるようなありふれた居酒屋だった。  一樹は今にも拳でグラスを握りつぶさんばかりに、語気を強めた。 「金も名誉も地位も手に入れているような人間が、女だけ並で満足できるわけなんかない。所詮は創作の中での話ですよ」 「全部完璧じゃ、読者が納得しないからそうしてるんだろ」  真悟は正論で対抗する。
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