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長い時間カウンセリングをするのは、双方にとって良くないことだ。集中力がなくなって、いたずらに時間を過ごすだけになる。
「分かった。今日は三時まででいい。――ここ一か月、寝つきが悪くて困ってる。二時間眠れれば良い方だ」
「それは辛いですね。仕事に支障はないですか」
「今のところ大丈夫だけど、これ以上睡眠不足が続いたら、いつか仕事で失敗しそうで怖い」
そういって、日比谷がこめかみを指で押した。睡眠不足による頭痛があるのかもしれない。目の下にも目立つ隈がある。
「病院に行って睡眠薬を処方してもらったらどうですか」
「薬に頼りたくない。眠れない原因は分かってるんだ」
「失恋で落ち込んでて眠れないってことですか」
対話しているうちに、緊張が薄れていく。教科書通りの傾聴法をなぞろうという意識がなくなったせいか。
「そうだよ。いろいろと思い出すんだ。寝る前はとくに」
別れた相手に並々ならぬ未練が残っているようだ。
「それに、何を食べても美味しく感じない。食欲自体がない」
「そういえば日比谷さん、少し痩せましたよね?」
今更だが、大学の頃より顔の輪郭がシャープになったように感じた。
「体重測ってないからわからない。どうでもいい」
日比谷が投げやりに言う。
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