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弦はため息を吐きたくなった。彼には身体的な症状が出ている。不眠、食欲不振。精神科に行って薬を処方してもらうのが一番早く解決できるのだが。
「どうしても薬に頼りたくないなら、マインドフルネス瞑想っていうのやってみますか」
「マインドフルネス? なにそれ」
うさん臭そうな目で、日比谷が弦の顔を見た。
「あ、瞑想っていっても宗教的な要素は一切ないですよ。姿勢を正して、自分の呼吸に集中するだけなんです。スティーブ・ジョブズもやってたらしいですよ」
「それで俺の症状は良くなるのか」
まだいかがわしそうな顔をして問うてくる。
「不眠に効くとも言われてます」
そう弦が言っても、日比谷は興味を示さなかった。マインドフルネス、という言葉がダメなのかもしれない。耳慣れていないから。
「ヨガでも同じ効果が得られるみたいです」
ヨガだったら、メジャーだし身近に感じるかもしれない。
弦の読みは当たった。日比谷の顔が少し明るくなった。
「ヨガなら良いかもな。そういえば昨日、会社帰りに、チラシ貰ったんだ」
急に日比谷は腰を上げ、大股で隣の部屋に向かった。
「あ、日比谷さん。そろそろ俺、帰りたいんですけど」
とっくに十五時を過ぎている。やっぱりカウンセリングのときはアラームを設定しておかないとダメだ。
「ちょっと待ってろよ。チラシ持ってくるから」
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