弦の日常

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 弦はこの部屋を借りたことを、若干だが後悔している。地下鉄月島駅から徒歩一分の距離という好立地なのだが、家賃が相場より安く設定されている。変形地に立っているからだ。三階建ての木造アパートの二階、1DKの台形型をした間取りは、ことごとく使い心地、住み心地が良くなかった。一番広い収納でさえ台形ときているので、大きな荷物も入りそうで入らない。それに加え、もともと整理整頓が苦手だったこともあって、部屋は四六時中雑然としているし物も溢れ気味だ。  彼女がいたときは小まめに片付けていたが、フリーだとどうもダメだ。いい加減に拍車がかかる。 「断捨離でもするかな……」  独り言ちながら、床にあるほとんどの物をベッドの下に押しやり、できあがったスペースにルンバを置く。まだ時間が余っているので、スマホにダウンロードしたばかりのゲームをプレイした。家を出る前にルンバのスタートボタンを押すと、耳慣れた能天気なメロディが流れてくる。  代り映えのない毎日だ、と思う。退屈だ。だから乗り気にならない案件にも、乗ってしまう。日比谷のカウンセリングだとか、ヨガだとか。  ――まあどうせやるなら、楽しまないとな。  前向きに考えながら、玄関のドアを開けた。
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