シャドウ

3/6
1233人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
 名刺を渡される夢――それは良い暗示の夢だ。名刺を渡してきた相手が知り合いなら、その人と仲良くなれる、という意味にも取れる。もしくは、その人に協力を求めたいという心の表れ。類型に照らし合わせて分析すれば、の話だが。 「日比谷さんって、俺のこと良く思ってなかったですよね? 大学のとき」 「ああ、正直、あのころは鬱陶しい存在だった。お前、夢分析で女にちやほやされてて調子に乗ってただろ」 「まあ、それは否定できませんけど。でも鬱陶しいって、ひどくないですか」  女にモテたいと思ってテニスサークルに入っていたのは弦だけじゃなかった。ほとんどの男が女目的でサークルに所属していた。 「日比谷さんだって女にモテてましたよね。好き放題やってたじゃないですか」  サークル内で日比谷が一番女に人気があったし、彼女をとっかえひっかえしていたのだ。 「いや、女は関係ないって。お前の、心理学の知識をひけらかす態度が気に食わなかったんだ。今だから言うけどさ、俺も本当は心理学を専攻したかったんだ」 「え、そうなんですか」  それは初耳だった。意外だ。 「先々のことを考えて経済学部にしたんだけどな。お前が楽しそうにユングのこと語ったり、プロのカウンセラーでもないのに夢分析しているのを見ると苛々しちゃってさ」  悪かったよ、とすんなりと謝られ、弦は落ち着かない気分になった。  日比谷の態度が素直すぎて気持ち悪い。     
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!