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名刺を渡される夢――それは良い暗示の夢だ。名刺を渡してきた相手が知り合いなら、その人と仲良くなれる、という意味にも取れる。もしくは、その人に協力を求めたいという心の表れ。類型に照らし合わせて分析すれば、の話だが。
「日比谷さんって、俺のこと良く思ってなかったですよね? 大学のとき」
「ああ、正直、あのころは鬱陶しい存在だった。お前、夢分析で女にちやほやされてて調子に乗ってただろ」
「まあ、それは否定できませんけど。でも鬱陶しいって、ひどくないですか」
女にモテたいと思ってテニスサークルに入っていたのは弦だけじゃなかった。ほとんどの男が女目的でサークルに所属していた。
「日比谷さんだって女にモテてましたよね。好き放題やってたじゃないですか」
サークル内で日比谷が一番女に人気があったし、彼女をとっかえひっかえしていたのだ。
「いや、女は関係ないって。お前の、心理学の知識をひけらかす態度が気に食わなかったんだ。今だから言うけどさ、俺も本当は心理学を専攻したかったんだ」
「え、そうなんですか」
それは初耳だった。意外だ。
「先々のことを考えて経済学部にしたんだけどな。お前が楽しそうにユングのこと語ったり、プロのカウンセラーでもないのに夢分析しているのを見ると苛々しちゃってさ」
悪かったよ、とすんなりと謝られ、弦は落ち着かない気分になった。
日比谷の態度が素直すぎて気持ち悪い。
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