シャドウ

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シャドウ

 二月十四日。午後十時を数分過ぎた頃だった。会社の女性陣が有志で配ってくれた義理チョコ(ゴディバのアソート五個セット)をベッドに寝そべって食べていたとき、スマホが鳴った。オンラインゲームをプレイ中だったのに、着信画面に切り替わる。思わず弦は舌打ちした。良い所だったのに。  発信元は未登録の番号だった。どうせ間違いか詐欺系の電話だろう、と無視を決めこもうとして、今日がバレンタインデーだということを思い出す。  もしかしたら――と、職場の女性の顔が頭に浮かんだ。もしくは――大学時代の元カノかもしれない。そんな淡い期待が過って、弦は通話ボタンを押した。 「藤崎さんの電話ですか」  低い男の声だ。弦はガッカリしつつも、「はい、そうです」と返事をした。 「俺、同じ大学だった日比谷だけど。覚えてる?」  覚えているも何も。最近思い出したばかりの名前だ。 「もちろん覚えてますよ。お元気でしたか」  日比谷が大学を卒業してから一度も会っていない。なぜ自分の電話番号を知っているのか訊こうとしたが、やめておく。どうせ元サークル仲間を辿って、弦の番号を聞き出したのだろう。 「――元気じゃない」     
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