ハルイチについて

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 今は昔。奥羽の山々がまだ人の足跡を許さなかった頃。吹き降ろす風に神鬼の声を聞いていた時代の話。  奥州は出羽、月の座す山の麓に、妙礼寺という古い寺があった。ほんの数年前までは空き寺で、村人達が墓参りに来る以外、なんの役もないところであった。  そこに二年前、ようやっと住職が来た。遠く栄えた酒田の慈恩寺から、修行を終えた若い僧がやって来たのだ。  これを喜んだのは、村人たち。今まで、山の木々と寺の紅葉の境目さえ分からぬ程に朽ちかけた、古寺。悪戯盛りの子どもらでさえ、気味悪がって近寄らぬ。大人衆も、雨風で黒染み罅割れた碑石やら墓石やら、好き好んで眺めたいものでもなかった。そこにようやく、面倒をみてくれる者が来るのだ。これは、行幸。念仏の功徳も一層深いことだろう。この様にして、寺の新しい住職は村人から受け入れられた。
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