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私は小さい頃母に叱られると、寝る前よくおばあちゃんの部屋に行っていた。
おばあちゃんの部屋にはお仏壇があり、お線香のにおいがただよっている。
「どうしたの? のりこちゃん」
「あのね、おかあさんにまたおこられたの」
おばあちゃんは動くことがあまりできず、外どころか自分の部屋を出たところすら見たことはなかった。でも、おしゃべりすることはできたので、よくおばあちゃんと話していた。
「なにがあったの?」
「おかあさんが勉強しなさいっていうの。もう宿題も終わったのに」
そう言うとおばあちゃんは手まねきした。わたしがベッドに座るとやさしく頭をなでてくれた。
「それは大変だったね」
おばあちゃんの手は小さくてしわくちゃだけど、とても温かかった。
「お勉強よりもご飯作ったりお掃除できたりする方がいいのにね」
おばあちゃんがぼんやりとつぶやく。なでられているうちにだんだん眠くなってくる。
「おばあちゃん、今日も一緒に寝ていい?」
「いいわよ。じゃあ、湯たんぽをよけないと」
おばあちゃんの後ろにはベッドを温めるための湯たんぽがあった。紫と緑の昔ながらのカバーに包まれている。わたしはそれを持って、目の前のローテーブルに持っていこうとした。湯たんぽから伝わる温もりに思わずわたしは抱きかかえる。直で持つとちょっと熱く、またお線香のにおいがした。そんなわたしを見て、おばあちゃんが笑う。
「あらあら、あんまり抱きしめていると火傷しちゃうわよ」
ベッドに入りながらおばあちゃんが呼びかけた。わたしはローテーブルに湯たんぽを置き、おばあちゃんのベッドに入る。
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
長くのばされた照明のひもを引き、明かりを消した。わたしはそのまま眠りにつく。
可愛がってくれるおばあちゃんといるこのときは、わたしにとって幸せな時間だった。
しかし、それも長くは続かなかった。
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