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正月の集まりというものは、サクラにとってつまらないものだった。
同い年の従妹がいるのならその子達と遊べばいいのかもしれないが、
残念ながらサクラの親族には年上しかおらず、彼女はいつも祖母の家で暇を持て余していた。
今時の小学生は携帯電話を持っているのもが当たり前の中、厳しい母は中学生からと買い与えてくれなかった。
暇つぶしのために家から持ってきた本はもう読んでしまい、彼女はぼおっと軒先から外を眺めていた。
山の麓にある祖母の実家は周りになにもなく、曇り空と近くの山が見えるだけだ。
朝からの寒さのせいか頂上がうっすらと白くなっており、最初のころはその美しさに感嘆していたサクラであったが、何度も見ればその感情も失せ、ただの風景でしかない。
居間からは父や叔父のにぎやかな喧騒が聞こえてくる。
お年玉だけもらってすぐ帰れればいいのに、正月の里帰りにサクラはいつも思う。
頬杖をつき、外を眺めるサクラを気にするものは誰もいない。
忙しい母と祖母にかまってもらうわけにもいかず、自分の居場所がないような気がしてサクラは寂しくなっていた。
「……ん?」
ずっと眺めていた山の頂上の景色に、一瞬なにかピンク色のものが見えた気がした。
山の頂上の景色を形作るのは枯れた樹木たちであり、その枝に雪をまぶし人の目に美しい景色を見せてくれる。
だがそのなかの一本に、ピンク色の花が咲いているように見えたのだ。
たった一本だけだから見逃しそうになるが、目を凝らしよく見ると確かに一本美しいピンク色の花を咲かせていた。
あの花は、サクラの名前の由来でもある、あの花に違いなかった。
「桜の木?こんな寒い季節に?」
何度目を擦っても確かに桜の花だった。
冬に咲く桜の木というものがあるのだろうか。
桜はいままでそんな話を聞いたことがなかった。
元来、サクラは好奇心が強い娘だった。
時間を持て余しているサクラにとって、その桜は魅力的だった。
――――――その山にはいってはいけないと祖母にきつく禁止されていたとしても。
サクラはいそいでコートを羽織ると、走るように家を出た。
家族は誰一人、サクラが出ていったことに気付かなかった。
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