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「……あと少しかな。」
舗装されていない山道を登るサクラは、ひとり呟く。
枯葉と枝ばかりの道は誰かが登った跡もなく、迷ってしまいそうになる。
吐く息は白く、急いできたためコート以外の防寒着を着てこなかった桜は
手を擦り合わせる。
あと少し、と思ったが頂上はまだまだ見えない。
だがここまで登ってきたのだ、彼女は気力を奮い立たせ足を踏みしめる。
その胸中は好奇心しかなく、帰り道のことなど頭にはなかった。
すると、目の前に白いロープのようなものが見えてきた。
「……なんだろあれ?」
白いロープが一本一本の樹木に数珠繋ぎに巻き付けられ、道を塞いでいた。
ロープにはなにか紙が垂れ下がっており、サクラには読めないが文字が書いてあるようだった。
「行かせたくないんだったらもっと厳重にしないと。」
桜は軽くそのロープの下をくぐり、先に進む。
「……ほら、なにもないじゃん。」
サクラは気にせず先に進んでいく。
ロープの紙が一枚破けて落ちたことを、彼女は知る由もなかった。
「……あれ?いつのまにか晴れてる……」
薄暗い曇り空だったはずがその雲はどこかへ行き、太陽の光が射しこんでいた。
肌寒かった空気はあたたかなものに変わり、春の陽気を感じられるくらいになっていた。
そう、まるで桜の咲く季節のように。
「不思議…‥‥もしかしてあと少しで頂上なのかな。」
サクラは期待に胸を膨らませ、何かに導かれるように駆け足で山道を登っていく。
草も花も生えず、なにもなかった山はいつしか景色を変え、春の生命に満ちていた。
彼女はそれを踏みつぶし、やがて頂上へと到達する。
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