伽藍洞の桜

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「……あった!!うそ!?すごい綺麗……」 山の頂上には一本の美しい桜の大樹が鎮座していた。 美しい桜の花が満開に咲き乱れ、雲ひとつなく晴れ上がった空を背景に花びらを散らせていた。 幹からのびる大きくしな垂れた何本の枝に小さな桜の花びらが、力強く咲いていた。 独特の甘い香りが、むせかえるような香りを漂わせていた。 サクラはその美しさに見とれ、桜の木の前に少年がいることに気付いていなかった。 少年は桜の木の洞の前で立っていた。 真っ白い着物、淡い白い髪の色、透明な肌、すべてが白で構成されているような少年だった。 無表情で一人桜を見ていた少年は、ゆっくりとサクラに振り向くと、一瞬驚いたような表情をしたがすぐに表情を戻した。 「……君は?」 「え!?」 少年の声は少年に見合う澄んだ高い声で、その声を聞きサクラは驚いた。 ここに人がいたこともだが、その少年が明らかにこの世のものではないように思えたからだ。 下履きもはかず素足で桜の木の前にいる少年など、人に見えるはずもなかった。 サクラがまじまじと少年を見ていると、少年はぷいっとそっぽを向く。 その白い頬は赤らんでおり、恥ずかしがっているようだった。 「あんまりじっとみないでくれる。」 「ご、ごめん。」 あまりにも普通の少年のような反応をして、サクラは不意を突かれる。 なんだがその様子が可愛く思えたサクラは、笑いながら少年に話しかける。 「あなたがとっても綺麗だったから。」 サクラにとって目の前の桜も、そしてこの白い少年もとても美しいものに見えた。 人非ざるものの美しさに、サクラは心奪われていた。 あらぬ方向をみていたその少年は目線をサクラに戻す。 その瞳だけは黒ではなく、桜色をしていた。 「女子供はすぐキレイっていうよね。」 ぶつくさとそんなことを零す少年は、普通の男の子にしか見えなかった。 不思議とその少年に親しみやすさを感じたサクラは、そういえばまだ彼からの質問に答えていなかったことに気付く。 「わたしの名前はサクラっていうの。……あなたは?」 「さくら?……僕と一緒だね。」 その言葉に合わせるかのように、風など吹いていないのに桜の花びらが少年のそばを舞う。 ひらひらと落ちる桜は、地面の上に残りピンク色の絨毯をつくっていた。
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