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「あなたもサクラっていうの?わたしのこの名前ね、おばあちゃんにつけてもらったの。」
「へえ。そうかい。」
さくらと名乗った少年は、そばにある大樹を見上げる。
満開の桜が、静かに咲いていた。
その横顔をそおっと眺めていたサクラは、自分とは違うその白い肌に見とれていた。
白い肌から桜色の血管が透けるその少年は、やはり人には見えなかった。
「あのね。……あなたもしかして、桜の神様?」
突拍子もない質問かもしれないが、サクラはそうとしか思えなかった。
真冬の山の山頂に一本だけある満開の桜の木の前にいた、美しい少年。
この不思議な空間なら、なんでもあると思えた。
「……そうだね。僕はこの桜の木に宿る神様、といわれるものかな。」
「やっぱり!!だってこの場所とっても神秘的だもの!!」
サクラは頬を興奮で赤くして捲し立てる。
しかしそんなサクラとは対照的に、少年はひんやりと冷めているようだった。
「驚かないんだね。神様とか信じてるの?」
「そういうわけじゃないんだけど、憧れてたの。こういう面白そうなこと!!」
「面白そう、ねえ。」
「あ、ごめんなさい。気を悪くした?」
「いや。そういうもんだよね。」
少年は何かを思い出したかのようにその桜色の瞳を閉じ、笑みを浮かべていた。
その表情は幸せそうで、そして寂しそうだった。
「……そうだ、サクラ。もっと面白いところに行かないかい?」
いいことを思いついたように少年はサクラに誘いかける。
その突然の誘いは、サクラにとって飛び上がるほど嬉しかった。
「え、いいの?」
「いいとも。君がここにきたのもなにかの縁だ。きっと楽しいことになるよ。」
「喜んで!!退屈してたの!!ありがとう!!」
サクラは少年の手を握ってぶんぶんと振り回す。
少年はあっけにとられたような表情をし、そして笑いだした。
「君は面白いね。そうだ、僕のことはさくらさまって呼んでよ。」
「ええ、もちろん!!ちょっとの間よろしくねさくらさま!!」
「ああ、よろしくね。サクラ。」
桜の花が、主の喜びに応えるように咲いていく。
枝に小さな花びらが所狭しと咲いていき、重みのあまり枝がしな垂れる。
それはまるで、蜂の巣のようだった。
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