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さくらさまはそっとサクラの手を握る。
男の子と手を握ったことなどなかったサクラは驚いたが、それよりもその手の冷たさには二重に驚いた。
神様だからなのか、その手は死人のように冷たかった。
固くなったサクラに気付いているのかそうでないのか、さくらさまはそのままサクラを洞の前につれてくる。
さくらさまに促されるままサクラがその洞を覗き込むと、奥は真っ暗闇でなにも見えなかった。
「……ここにはいるの?」
流石のサクラも怖気づき、掴んでいたさくらさまの手を強く握る。
さくらさまの手は冷たかったが、なにも掴まないよりましだった。
「中は桜並木でね。とても綺麗なんだ。」
「中にも桜があるの?」
「一本だけじゃなくて何百本もあるんだ。きっと君も気に入ると思うよ。」
一本だけでこの美しさなのにその木が何百本もあると聞き、サクラの好奇心がくすぐられた。
きっとお母さんやお父さん、おばあちゃんに自慢したらびっくりするだろう。
ちょっとでも、サクラのことをかまってくれるような気がした。
「……わかった。案内お願いねさくらさま。」
「安心して。僕の家のようなものだから。」
羽のような軽さでさくらさまはサクラの手を握り直すと、洞の中に迷いなく進んでいく。
サクラはさくらさまに引っ張られるような形で、その暗闇のなかへはいっていった。
洞の中は真っ暗で、何も見えず不安が襲ってくる。
ここまでの暗闇を、サクラは体験したことがなかった。
足がすくみ、うまく歩けない。
その様子に気付いたのか、サクラを先導していたさくらさまが子供をなだめるような口調でさくらに話しかける。
「もし怖いのなら目をつぶっていいよ。僕が君を連れていくから。」
「ほんとに?……じゃあお願いね。」
サクラは瞳を強く閉じる。
瞼を開けようが閉じようが、暗闇は変わらず恐ろしいままだった。
だがさくらさまの冷たい手が、サクラを導いてくれる。
「足元気をつけて。」
足元には確かにボール大くらいの大きさの石や、小枝のようなものがあるようで歩くたびにそれにひっかかり、サクラはこけそうになっていた。
そのたびにさくらさまはサクラの手を握り、こっちだよと連れて行ってくれる。
数分歩いただろうか、洞を抜けたのか瞼の上から光が透けて見え始めた。
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