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「もう目を開けてもいい?」
「まだ駄目だよ。もうちょっと我慢して。」
さくらさまはいたずらっぽく笑うと、そのまま歩き出す。
その歩みは軽やかで、楽しそうで、もし羽があるのならば飛んでいきそうなほどだった。
サクラは黙ってさくらさまの言葉に従い、そのままついていく。
きっと、桜並木まで自分を連れていくつもりなのだろう。
その桜並木の風景を考えるだけでサクラはわくわくしていた。
そしてまた数十分後、さくらさまは立ち止まった。
「さあ、目を開けて。」
その言葉を聞き、サクラはゆっくりと目を開ける。
真っ暗闇からいきなり目を開けたので、光が目に痛かった。
ぼんやりとした視界がじょじょにクリアになっていくと、そこには夢幻的な風景が広がっていた。
「すごい、天国みたい……」
地面は土の茶色ではなく、空を写したような透き通った青でそこから何百本の桜が並んでいた。
その一本一本は地上で見た桜の木のように枝を広げ、小さな花を咲かせていた。
まるで雨のように桜の花びらが散り、地面に落ちていくが不思議なことにその花びらはそのまま空のような地面に吸い込まれていった。
これだけ圧倒的な桜並木をサクラは見たことがない。
狂ったように咲き誇る桜は、この世のものとは思えないほど美しかった。
何度も美しさのあまりため息をついているサクラの姿を、さくらさまはじっと見つめていた。
「天国、かな。ここは。」
さくらさまはサクラの手をゆっくり離すと、一本の桜の木に近づいた。
そして桜の葉を一枚引きちぎると、木の洞に手を突っ込んだ。
「なにしてるんですか?さくらさま。」
サクラはさくらさまに近づくと、さくらさまが振り返った。
その手には、酒を注がれた葉の盃があった。
「これは?」
「桜酒だよ。のんでみなさい。」
「えでもわたしまだ子ども……」
「正月にお神酒を飲んだでしょ?あれと一緒だよ。」
盃の上には桜の花びらが一枚浮かんでおり、それはとても幻想的で、妖しかった。
ここまで歩いてきて一杯も水を飲んでいないサクラは、ごくりと喉をならした。
喉が異様に乾いていた。
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