冷たいガラスの向こう側

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 誰もいない家は冷たさを内包して、しんと静まりかえっていた。  エアコンを入れると、眠りから覚めてのろのろと動き出すような起動音、そして勢いよく生温い風が吹き出した。  「ノワール」からの帰り道、スーパーで買ってきた物を適当に冷蔵庫に放り込んでいく。  ちらりと時計を見上げると、もう六時を過ぎていた。  もうすぐ(あきら)雅美(まさみ)が帰ってくる。夫だって、今日は早く帰ると出勤するときに言っていた。夕飯の支度を、そう思うのに、私の体はちっとも動いてくれない。まるでソファと一体になってしまったかのようだった。  エアコンの乾いた風が、どこか嘘っぽい温もりで部屋を満たしていく。  六時半を知らせる時計のチャイムが鳴った。ダメだ、もう取りかからないと間に合わない。  ソファから体を引き剥がすような思いで立ち上がる。  冷蔵庫には朝食の残りの味噌汁が少しと、ほうれん草のおひたしが残っている。あとは、野菜炒めと冷凍の唐揚げで誤魔化そう。  豚肉をパックから直接フライパンへ入れると、しんとした家にジュウっと音が響いた。  カット野菜も、袋から直接フライパンへ放り込む。     
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