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冷たいガラスの向こう側
内側と外側。
ガラスの向こう、行き交う人々に私は見えているんだろうか。
喫茶店「ノワール」で外を眺めながら、私――沼田順子はそんなことを考えていた。
店内と外を隔てる一枚のガラス。
暖気と冷気の狭間にあるそれは、細かな水滴をびっしりとまとい、ときどきまるで涙を流したかのように一筋の線を描く。
「お水、入れますね」
マスターが空になったグラスに水を注いでくれる。水差しに浮かんだレモンの黄色がその動きに合わせてゆらりと揺れた。
私は小さく頭を下げて礼をすると、また視線を窓の外に移した。
いま私がいるのは完璧な『内側』、とても温かい『内側』だ。
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