卒業論文

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 そう言って美希は時計をチラと見て、うーん、とうなった。日付はもう28日になっていた。結局、思うように進められないまま時間だけが過ぎてしまった。 「ね、夜食買いに行こうよ。お腹すいてるとさ、思考力衰えるし」 「いや、帰ろうか悩んでたんだけど。外出るなら帰るよ」 「私もう終電ないし」 「俺は自転車」 「帰れるのに帰らない、という選択をしたら意志力が高まって書けるかも」 「何か変な説得力ある」  どやっと美希は得意げな顔をする。ころころと変わる表情を見ていると、固まっていた頭の中がやわらかくなる気がする。気持ちが緩んだのは間違いない。 「しゃあない。買いに行こう」 「やった。演算室に一人はさびしいから助かる」 「それを」  と言ったところでぼくは口を止めた。ん、と美希はクエスチョンマークを浮かべるけど、ぼくは話題を変えた。 「行くならさっさと行こう。座ったら立つのしんどい」 「確かにっ」  ぼくの提案を受け入れて、美希はクエスチョンマークをしまって、笑顔を見せてすぐにコートとマフラーを着込んだ。  コートを着込みながら思う。  それを、帰ったらさびしいを最初に言えば帰ったらダメな気持ちになったのに。ただ、それを言うのは気恥ずかしいし、何か悔しい。  まあ最初からそう言うわずに、説得しようとあれこれ適当なこと言って笑わすのも美希らしいと思う。     
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