短編

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 お気に入りの赤いマフラーに鮮やかな青の耳あて、黄と緑の水玉模様の帽子、ちょっと大きめのピンクのカーディガン。  それらを身につけて「おはよう」と声をかけると、ものすごく嫌な顔をされるのは日常茶飯事だ。 「今日も奇抜なファッションね」  それから、「おはよう」とちゃんと返してくれるあたりが彼女のいいところだ。黒髪ツインテールに眼鏡のいかにも真面目そうな彼女は、印象に違わず風紀委員に所属している。  あいさつでいい気分になりながら隣の席に座る。鞄を机のフックにかけるけれど、帽子や耳あてやマフラーは外さない。  その格好のまま一限目の準備を始める私を横目に、彼女はため息をついた。 「いつ見ても暑苦しいわ」  教室の中にはほどよい暖房が効いていて、他の生徒は上着を脱いでいる。こんなやりとりも朝の挨拶の一環だ。 「だって、取ったら寒いもの」 「風紀委員の友人として、色くらいは地味なものにしてほしいんだけど」 「駄目だよ。ちゃんと意味のある服装なんだから!」  と、思わず声を大きくする。 「この帽子はおばあちゃんの手作りでしょ。このカーディガンはお母さんが若い頃に奮発して買ったやつ。マフラーはお父さんが店先で三時間悩んでくれたやつで、耳あてはゆかりちゃんからの!」  耳あてに手を当てて友人を見ると、照れたようにそっぽを向く。 「わかった。わかってるから」  心なしか頬が赤い。私は机に身を乗り出して、彼女の顔をのぞきこむ。 「とっても暖かいよ、ゆかりちゃん。大事に選んでくれてありがとう」 「もう、規定違反で減点されたくなかったら、さっさと授業の準備をしなさい!」  ゆかりちゃんが声を張り上げる。風紀委員で鍛えられた通る声は、教室の中を一気にしんとさせる。すでに予鈴が鳴っていることもあって、クラスメイトたちはそそくさと席に向かう。  私はのんびり「はーい」と返しながら、一番最初に使う教科書とノートを引っ張り出す。  そうしているうちにドアが開いて、ちょっと早めに先生がやってくる。担任の先生ではなく、副担任の先生だ。そういえば担任の先生は子供の授業参観があるのでお休みだと言っていた。  副担任の先生は、私のほうを見てびくっと肩を震わせる。そして困ったようにゆかりちゃんのほうを見る。  ゆかりちゃんは額に手をあて、長い長いため息をついた。 「先生。西園寺さんはですね……」
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