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一日の授業を終えて、昇降口で身体をぐんと伸ばす。
「あ?、今日は一段と寒かった!」
「こっちはあなたを見てたから一日中暑かったわよ」
「どういたしまして?」
「良い意味で言ってないわ」
ゆかりちゃんは淡々と言いながら下駄箱から靴を取り出す。
見た目はクールだが、彼女のハートがとてもホットなことを私は知っている。それを口にすると彼女は怒るふりをして恥ずかしがるので、笑ってごまかす。
「今日の放課後どうする?」
「私は塾の日よ」
「そうだっけ」
自分の下駄箱から靴を出しつつ、返す。ゆかりちゃんは勉強にも真面目なので、週三回塾に通っている。勉強があまり得意ではない私には真似できない。
一方、習い事をしていない私の方も、部活には入っていない。学校は寒すぎてすぐ体調を崩すからだ。小学校までは校舎が古くて色んな人の思い出で冬でもじんわり暖かかったけれど、中学校は校舎がちょうど新築になってしまったせいでどこもかしこも水の中のように冷たい。
「ゆかりちゃんと遊べないなら、あそこに行ってこようかな」
「また行くわけ?」
「あそこがこの学校で一番暖かいもの」
寒い日はその場所に行くのが最近のお気に入りだった。けれど、ゆかりちゃんはあまりいい顔をしない。
「けど、あそこは屋外じゃない」
「部屋の中じゃないけど、南国にいるみたいな気分になれるよ」
ちょっとした小旅行をした気分になれるのだ。
ゆかりちゃんがいい顔をしない理由は分かっている。ゆかりちゃんは私が低体温症で倒れた現場に居合わせている。そのときの私は、顔が土気色で、意識もなくて、そのまま人形のように動かなくなってしまうのではないかと思ったらしい。思いやりのあるゆかりちゃんはいつだって私を真剣に心配してくれるのだ。
ゆかりちゃんはじっと私を見て、私の気持ちがすでにその場所へ向かっていることを察すると、諦めたように鞄の中を探り始める。
「これ」
取り出したハンカチを渡してくれた。ハンカチは、触れてすぐわかるほど、ぽかぽかしていた。
「妹が授業で作ったのを、くれたやつ。気休めだけど、持ってなさいよ」
暖かさで分かる。ゆかりちゃんはこれをとても大切にしていて、私のために貸そうとしてくれている。
私はハンカチを大事に受け取った。
「うん、ありがとう」
ほら。私が暖かさを感じるときは、こんなにも幸せな気持ちになれる。
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