遭遇

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 第七宇宙港につながる地表面亜音速道路の脇でジーナ内務曹長は途方に暮れていた。停止した高速機動車両の制御ユニットを覗きこんでいる兵士に声をかける。 「どう? 直りそう?」  兵士は困惑した表情で振り返った。 「だめです。マニュアルによればシステムを再起動すれば機能復帰するはずですが、何度やってもすぐにダウンしてしまいます」  ジーナは手首のクノログラフをチェックする。着任士官との会合時刻まで30マイナを切っている。 「困ったわね。相手は外人部隊あがりの猛者よ。到着に遅れたりしたら、車ごと海に叩き込まれかねないわ」  外人部隊というのは正しい表現ではない。第十三遊撃戦隊は帝国の編成に基づく部隊であり、そもそもは正規に任命された士官、兵士で構成されていたものだ。 「今からじゃ、司令部に代わりの車を手配してもらっても間に合わないし……」  ジーナは複合装甲で外装が覆われた高速機動車両を睨みつけた。本来ならどんな悪路でも高速で突破していく車両だが、始動しなければ何の役にも立たなかった。 「よお、どうしたんだい?」  ざらざらした合成音声にジーナが振り向くと、古びた汎用ジャケットを着た青年がすぐ後ろに立っていた。ぼさぼさの髪にピンクの肌、円筒形のダッフルバッグを背負っている。ざらざらした声は喉元の翻訳器のものだった。肌の色からするとG型恒星系の植民星出身者らしい。ただその色は少し黄色がかっていて、彼女の知るどの星の出身者とも違っていた。 「車がね、ちょっと調子悪くてね」  周辺は民間の居住地域になっていて、他星系からの来訪者や宇宙船の乗員向けの宿泊施設や娯楽店舗も多く並んでいた。出入りの激しい民間船の乗員を雇い入れるための斡旋所が多く存在し、好条件の船への乗換えを目論む船乗りが多くたむろしている地域だった。服装からして、青年はそうした船乗りの一人と思われた。 「ちょっと見せてもらってもいいかな?」  船乗りの言葉に兵士は警戒した表情を見せたが、ジーナは目で制した。回復の可能性があるならどんなことでも試してみるべきだった。 「何かわかるのだったら」  取り外したサイドパネルの前から移動し、船乗りが制御ユニットの内部をのぞき飲めるようにする。
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