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船乗りは制御ユニットの前に座り込むと、パネルスイッチをいくつか操作した後、ユニットに耳を押し当て、ダイヤルを細かく操作し始めた。やがてジーナたちの方に顔を向ける。
「この車、数日前の艦閲式の時に路上に出していたのか?」
「え……、その時は帝都内を巡回していたはずだ」
兵士が答える。
「それが原因だな」
船乗りはあっさり言い切った。
「艦隊が次元回帰した時の亜空間ノイズを拾っていたんだ。回路の中をさまよっていたノイズがここにきて悪さを起こしたってところだ」
「直せるの?」
「ああ、だがそのためには……」
船乗りは立ち上がって、ジーナのそばに歩み寄った。
「曹長さん、そのヘアピンを貸してくれないか?」
右耳の上のヘアピンを指さす。
「これ? いいわよ」
ヘアピンを受け取った船乗りはそれを押し開いて奥歯で噛みしめコの字形に曲げた。制御ユニットの電子回路の前に並べて長さを調整する。
「これぐらいかな」
ポケットから手袋を取り出して右手にはめ、コの字形のヘアピンを掴んで、一つの端を基盤の端子にあてる。もう一つの端をゆっくりと基盤の別の端子に近づけていく。
パシッ
青白い電気火花が散った。船乗りがヘアピンを外し、スイッチをパチパチと開閉するとモニターの表示が一斉にグリーンになった。ブーンという音とともにシステムが起動していく。
「これでいいはずだぜ」
背後で疑わし気に眺めていた兵士があわてて駆け寄り、作動を確認する。
「全機能が正常に戻っています。なんでこんなことが……」
「ともかくすぐに出発するわよ。第七宇宙港に急がなくっちゃ」
ジーナは船乗りの方に向き直った。
「ご協力感謝します。お礼を差し上げたいけど、今は急いでいます。自分は帝国艦隊司令部所属のジーナ内務曹長です。後で司令部に訪ねてきていただければ……」
船乗りは破願した。
「礼なんて……、そうだ、宇宙港に行くなら乗せてってくれないかな。それで十分だ」
ジーナはすぐに頷いた。
「わかりました。乗ってください」
高速機動車両の後部座席に乗り込み、自分の隣に船乗りを座らせた。
「急いでちょうだい」
運転席についた兵士に声をかける。
高速機動車両は浮上して亜音速道路にはいり、速度を上げて高速レーンに入った。
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