遭遇

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 ジーナは体を前に乗り出して兵士に尋ねる。 「どう、間に合いそう?」 「はい、なんとか」 「お願いね、車ごと海に蹴り落とされるなんてまっぴらだもの」  ジーナは座席に座りなおし、窓越しに宇宙港の方向を眺めた。周辺の建造物群の間から管制塔の頂きだけがわずかに見える。宇宙港で自分を待ち構えている相手のことを考えると、両肩にずっしりと重いものを感じた。 「えらく切迫しているな。危険な任務に向かっているのか?」  隣の席でバッグを膝の上に抱え込んで座っていた船乗りが訊ねてきた。人懐っこい笑顔を向けてくる。怖がっているわけではなさそうだ。 「別に危険ではないわ。宇宙港に着任士官を迎えに行くところよ。ただ、その士官がヴァレル星の暴君猿の図体と、装甲を貫く鋭い視線の持ち主なの、たぶん」 「ふうん、なんかとんでもない奴みたいだな」  船乗りののんびりした口調にジーナの緊張は少し緩んだ。宇宙港に着くまでの少しの時間、愚痴を聞いてもらうぐらい構わないだろうと思う。 「今日が初対面だけど、第十三遊撃戦隊からの転任者なのよ」  話しながら、ジーナは手元のスイッチを操作して運転席との間にシールドを下ろした。新任士官への悪口ととられかねない話を麾下の兵に聞かせたくはなかった。 「民間人でも第十三遊撃戦隊の噂は聞いたことがあるでしょ。常に最前線で戦い、後方送致された負傷兵の代わりに、各地の荒くれ者や傭兵くずれを徴用し続けたことで、正規の訓練施設の出身者の比率は一割を切っていると言われているわ。新任の少尉はそこから来るの」  ジーナは。指令に添えられていた戦歴データを思い起こす。 「なんでも、艦に乗ってから数か月で猛者ぞろいの機関部で主要ポジションにのし上がったそうよ。並みの腕っぷしじゃないわね。実戦で、被弾のダメージコントロールや緊急改造で何度も艦の危機を救ったそうよ。ある戦闘では、敵艦に接舷して補給用の搬送チューブを突き刺し、エネルギー炉に直結させて内側から焼き払ったんだって」  船乗りは顔をしかめた。 「弾薬が尽きてのことだそうだけど、正規の訓練を受けた将兵はまず考えつかない方法ね」  ジーナは同意を求めるように船乗りの顔を見たが、相手が押し黙ったままなので、肩をすくめて言葉を続けた。 「というわけで、私が迎えに行くのは屈強剛腕の膂力と冷徹残虐な胆力を併せ持つ獰猛な戦士ってことなの」
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