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高速機動車両は宇宙港に到着した。複合装甲素材で舗装された降着エリアを抜け、宇宙艦用の海面エリアに出る。降着装置を持たない宇宙艦は水面に艦体を半ば沈めて停泊するのを常としていた。宇宙空間用に気密された構造なので内部に浸水することはないし、加速度対策の重力制御装置は単体で艦を上空まで上昇させることができる。
海面エリアには10隻以上の艦船が停泊していた。係留された艦船には埠頭から人員乗降用のタラップと物資補給用の搬送路が渡され、物資を載せた車両や作業員たちがせわしなく行き来していた。ジーナの車両は海面エリアの半ば以上を進み、会合場所として指定されていた16番埠頭に到着する。だが、そこに停泊している艦船はなく、穏やかな海面が沖合まで広がっているだけだった。
「どういうこと? 会合時間まであと10マイナもないのよ」
ジーナは高速機動車両から降り、海原を眺めて呆然とする。運転席の兵士が車内から呼びかけて来た。
「管制塔にアクセスして入出港データを得ました。第十三遊撃戦隊の艦は昨日入港して8イオマ後に出港しています。その際に乗員1名の下船が記録されています」
「それは着任士官を降ろして飛び去ったってこと? いいけど、当の士官はどこ?」
ジーナは周囲を見回したが、埠頭には彼女らの他に人影はなかった。高速機動車両の背後を見通そうとして、船乗りを乗せたまま埠頭まで来てしまったことに気付く。しまったと思って船乗りに声をかけた。
「ごめんなさい。もうすぐ士官をお迎えできるはずだから、その後で港のご希望の場所までお送りするわ」
船乗りは荷物を抱えて車両から降りて来た。荷物を置いて、大きく伸びをする。
「かまわないぜ。ここで降ろしてもらって問題ない」
「申し訳ありません。任務が最優先なので……」
「わかるよ、任務に専心してくれ」
シーナは改めて船乗りの姿を眺めた。ひょろりとした体躯だが、まっすぐな背筋ときびきびした動きは相応の鍛錬を積んできたことを示していた。
「もし、乗り込む船を探しているのなら司令部を訪ねて来てね。あの災厄で帝国は多くの将兵と技術兵を失っています。技術将校とはいかなくても、活躍の場はたくさんありますから」
船乗りは白い歯を見せて笑った。
「ありがとう、だが次の仕事はもう決まっているのでな」
「そうですか。もし、気が変わったらいつでもどうぞ」
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