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改めて埠頭を眺めたが、近づいてくる人影はなかった。ジーナは接舷ポイントに立ち、立哨の姿勢を取って士官を待った。
だが5マイナを過ぎても士官は姿を現さなかった。もう一度周囲を見回してから、ジーナは姿勢を崩した。目の前の海原には発着しようとする艦の姿はなく、獲物を探す海鳥が二羽三羽と滑空しているだけだった。
ジーナは胸元からコードでつながれた青い徽章を取り出し、右手でぎゅっと握りしめた。かつて埠頭に立って空を見上げていた日々のことを思い出す。父の船が帰ってくることはないとわかっていたけど、一縷の望みを捨てきれずにいた時のことを。
「宇宙に出るのを切望していたのか?」
背後からの声に振り返ると、後ろに先ほどの船乗りが立っていた。腕組みをし、ジーナと同じように空を見上げている。
「ええ」
ジーナは握りしめた右手を見つめて答えた。
「それは父が進んだ道でもあるから」
振り向いて船乗りに近づき、右手を開いて掌の上の徽章を見せた。四角い台座の上に藍色の金属の球体が接合されている。
「ソル星系遠征の従軍徽章よ。これは父に授けられたものなの。出陣の日、見送りに行った私に父はこれを渡し、持っていてくれと言い残したの」
ジーナは再び徽章を握りしめた。
「ソル星系遠征はよくある未開文明星系の併合戦争で、誰もが簡単にかたづくものと思っていた。相手は恒星間航行の技術も持たない種族だもの。でも、そうはならなかった。
ソル星系人は驚異的な技術模倣力と宇宙戦能力を持っていた。あっという間に自分たちの宇宙戦艦を帝国のものにほとんど引けを取らない性能に改造し、巧妙な戦術と自らの損害を顧みない苛烈な攻撃で、遠征艦隊を壊滅に追い込んだわ。あまりの急激な進歩に裏で植民星の反乱勢力が力を貸していたのでないかと言ううわさが出たくらいよ。
テラ星系人の脅威はそれだけでは終わらなかった。なんと、逆に侵攻艦隊を組んで帝国の領域に侵攻してきたの。各辺境の植民星の反乱鎮圧に勢力を分散させていた帝国艦隊は態勢を整える暇もなく個別撃破されていった。帝国内に動揺が広がり、ソル星系遠征はソル災厄と呼ばれるようになったわ」
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